書くものは増えても、文脈は増えない
会議を書き起こし、アイデアを記録することは容易になりました。レポートやコードの下書きも短時間で作れます。難しさは後から現れます。残した記録をもう一度使うときです。アイデアは覚えていても、題名や正確な表現、書いた日付を思い出せないことがあります。一つのメモを見つけても、次の判断には足りない場合も少なくありません。
重要な仕事には、複数の記録が同時に必要です。過去の観察、顧客の言葉、以前の案を退けた理由、その後に変わった方針。情報は存在していても、仕事に使える形ではそろっていません。
AIも同じ条件で働きます。新しい仕事は、多くの場合、人が選んだファイル、短い要約、検索システムが返した一部の文章から始まります。必要な承認記録が欠けていたり、廃止された規則を現行のものとして扱ったりすれば、高性能なモデルでも不完全な文脈からもっともらしい答えを作る可能性があります。モデルの性能は重要ですが、受け取っていない根拠まで復元することはできません。
根拠は複数の記録に分かれている
決定、その適用範囲、その後の変更が、別々の記録に残されていることがあります。一つの段落を見つけることと、結論に必要な根拠を組み立てることは別の仕事です。答えは一つの文章ではなく、資料同士の関係にある場合があります。
対象が同じでも、表現は変わる
ある文書の「価格例外」が、別の文書では「戦略顧客向け特別条件」と書かれているかもしれません。逆に、「承認」という同じ言葉が、提案、条件付きの決定、最終確定という異なる状態を指すこともあります。似た表現は有用な手がかりですが、それ自体が意味を安定して説明する構造ではありません。
文脈の受け渡しが繰り返される
新しい会話を始めるたびに、ファイルを選び直し、過去の判断を要約し、例外を説明し、現行版を確認しなければならないことがあります。この繰り返しには時間がかかり、大切な情報が抜ける機会も生まれます。役に立つ記憶システムには、文脈の組み立て方を隠さずに、この再構成を減らすことが求められます。
出発点を変える
Consilienceは、記録を、そこに含まれる人、プロジェクト、意思決定、時点、根拠と結びつけておく方法を研究しています。目標は、モデルにすべてを読ませることではありません。現在の仕事のために選ばれた文脈を人が確認し、修正できるようにし、一度の回答の後にもその構造を引き継げるようにすることです。
私たちが取り組む「読むこと」の問題とは、いま重要なものを選び、別々に残された事実を結び、その仕事を次へ残すことです。次の仕事が、蓄積された理解から始まる状態を目指しています。
