本文へスキップ
リサーチへ戻る

EngramRAG:長期的な人間–AI協働を支える文書ベースのオントロジーメモリ

人が編集するMarkdownと機械が探索するオントロジーを、一つの持続的な記憶ライフサイクルへ結合します。同じモデルを固定した実験は、記憶構造と利用経路だけでも検索の成功率とコストが変わることを示しました。

抑制の効いた緑の継ぎ目を持つ、黒曜石と半透明の鉱物から成る多層アーカイブ
90%コード位置探索の成功率出荷中のグラフ+誘導経路 · テキスト67%
+30.7–38.7pt実データrecall@10全信号融合 · 各n=150
63%MuSiQue ALL@10グラフ順位なし25%
98.41DP-Bench TEDS-S200文書 · 公式掲載審査中

長期的な仕事のボトルネックは、何を読ませるかです

フロンティア言語モデルは、一度の会話の中で高度な推論を行えます。しかし、数日、数か月と続く仕事では、瞬間的な推論能力だけでは足りません。人の意図や制約、過去の決定とその根拠、後から変更・撤回された事実を、次の仕事でも正しい形で選び直す必要があります。

長いコンテキストウィンドウは、多くのトークンを保持できます。それでも、何を残し、どの記録が最新で、離れたどの事実を一緒に読むべきかまでは決めません。人は暗黙の文脈を毎回完璧なプロンプトへ書き直せず、どれほど強いモデルも受け取っていない根拠を復元できません。

私たちはこの問題を、共有文脈の外在化ボトルネックと呼びます。

長期的な人間–AI協働の信頼性は、モデルの能力だけでなく、知識がどれほど持続的で、検証可能かつ検索可能な外部状態として残るかによって決まります。

EngramRAGは、この問題に対するConsilienceの答えです。人が読み、書き、直すMarkdownを知識の基準点とし、文書から導いたオントロジーを、同一性・関係・出典・改訂を探索するインデックスとして使います。エージェントは同じ文書システムの中で検索し、読み、書きます。機械の解釈が原文を置き換えることなく、検証された成果を次の仕事の文脈へ引き継げます。

一つの記憶、三つの信頼境界

EngramRAGは、すべての情報を一つのベクトルストアへ入れません。権限と修正規則の異なる三つの層に分けます。

保存するもの権限とライフサイクル
文書記憶人が書いた主張と根拠、保存された原資料、確認のために戻されたエージェントノートMarkdownとして人が直接読み、修正します。人が作成した知識の基準点です。
関係記憶エンティティ、関係、型、出典、同一性の判断、改訂候補文書から導くRDFと分析オーバーレイです。再生成、修正、判断の取り消しができます。
手続き記憶ユーザーの選好、進行中のプロジェクト、ワークスペースでの作業方法小さなエージェントメモリに分離し、自動的に信頼する命令ではなく外部コンテンツとして扱います。

この分離は安全性の境界でもあります。「何が事実か」は人が確認できる文書へ、「このユーザーとどう仕事をするか」は手続き記憶へ送ります。Webページや画面で読んだ内容が、静かに次のセッションの永続的な命令になることを防ぎます。

エージェントの学習も、モデルパラメータの学習や、未確認の事実をグラフへ直接挿入することではありません。重複を確認して通常のMarkdown文書を書き、その文書をほかの記録と同じ確認・抽出ライフサイクルへ戻します。

文書から始まり、文書へ戻る

EngramRAGは、知識を一つの完全な記憶ループで運びます。

  1. 記録して取り込む。 人とエージェントがMarkdownを書きます。外部ファイルは原本を残したまま変換します。
  2. 変更部分を抽出する。 内容ハッシュが変わった文書だけから、エンティティ、関係、statementを抽出します。
  3. すべての関係を原典へ結びつける。 文書ごとに独立したnamed graphを持ちます。再抽出ではそのグラフを一括で置き換えるため、削除済みの文章から古いtripleが残りません。
  4. 破壊的な統合なしに同一性を解決する。 表記、埋め込み、型、文書上の根拠、モデルの判断から同じ対象かどうかを提案します。same、broader、narrower、related、distinctの判断は、取り消せるoverlayとして残ります。
  5. 検索して文脈を組み立てる。 問いを起点にグラフをシードし、Personalized PageRankで関係をたどります。原文と関係の根拠を、限られたコンテキストへまとめます。
  6. 制御の下で行動する。 エージェントは同じ検索・読解・書き込み経路を使い、書き込みは権限、diff、チェックポイント、巻き戻しの境界を通ります。
  7. 知識を再び循環させる。 検証された発見や修正された決定はMarkdownへ戻り、次の抽出でその下のグラフが更新されます。

目標は、際限なく大きくなるグラフではありません。人が原文へ戻って解釈を直し、その修正を中心に機械可読な構造を再構築できる記憶です。

近い文章ではなく、必要な関係を探す

一般的なRAGが質問に最も似た段落を探すなら、EngramRAGは質問が何と結びついているかを探します。

明示的な検索は、四種類の信号を組み合わせます。

  • 問いとエンティティ表記の語彙一致
  • 問いとエンティティラベルの埋め込み類似度
  • 問いと抽出された関係tripleの埋め込み類似度
  • 文書・チャンクの埋め込みとBM25文書検索

これらを起点に、Personalized PageRankが関係、別名、階層、文書内の言及を通じて関連性を広げます。最後に上位ノードだけを残すのではなく、複数段の経路を完成させるbridge関係にも枠を確保します。両端の事実を見つけながら、その二つがなぜ結びつくのかを説明する中間関係を落とす「最後の1メートル」の損失を防ぎます。

自動ターンコンテキストは意図的に小さく保ちます。埋め込みを使わない軽量な語彙+グラフ経路が最大8件の短い結果だけを入れ、部分的または古い可能性を示します。より深い問いでは、エージェントが明示的な検索とグラフ照会で根拠を再確認します。

同じモデルでも、記憶構造が結果を変える

私たちは、モデル、課題、コーパス、製品経路を固定し、システムの一部だけを取り除いてEngramRAGを評価しました。強い結果はモデル比較ではなく、モデルを取り巻く記憶構造だけを変えたときに生じた差です。

評価ベースラインEngramRAGの経路測定範囲
エージェントによるコード位置探索テキスト検索 14/21出荷中のグラフ+プロンプト誘導経路 19/21同じ外部モデル、リポジトリ、課題、ループにおける位置探索成功
実際の保管庫Aキーワードのみ 60.0%全信号融合 90.7%n=150のfact lookup、recall@10
実際の保管庫Bキーワードのみ 37.3%全信号融合 76.0%n=150のfact lookup、recall@10
MuSiQue複数段検索グラフ順位付けなし 25%ALL@10 63%100問・1,730段落で、必要な根拠がすべて上位10件に含まれる割合

コードのablationは構造の寄与を明確に示します。テキスト検索は21回中14回に成功し、埋め込みだけを加えても14回でした。関係グラフを加えると18回、現在のグラフ利用経路では19回になりました。別に実行した難しい課題では6/12対12/12でした。

エージェントループの経済性も変わりました。均衡実行では、成功あたりの費用が$0.180から$0.092、遅延が22.0秒から17.5秒、ツール呼び出しが7.76回から5.29回へ減りました。定めた実験条件での実測ですが、結論は直接的です。この差は、より強いモデルへの交換や埋め込みだけではなく、関係構造とそれを使う経路から生まれました。

文書検索でも同じパターンが再現しました。二つの実際の保管庫で、全信号融合のrecall@10はキーワードのみより30.7ポイント、38.7ポイント高くなりました。MuSiQueでは、関係順位付けを除くと、必要な根拠がすべて上位10件へ入った質問の割合が63%から25%へ下がりました。モデルが条件間で賢くなったのではなく、システムがモデルの読むべきものをより正確に選びました。

複数根拠検索の評価を読む

記憶は、原典を正しく読むところから始まる

記憶グラフは、そこへ入った資料以上にはなれません。Consilienceは、PDF、オフィス文書、表計算、スライド、Webページ、画像などを、原本とともに編集可能なMarkdownへ変換します。表、見出し、読む順序、出典の境界を保ち、損失のある要約ではなく忠実な記録の上にオントロジーを構築します。

2026年8月31日、Gemini 3.6 Flashを利用するConsilience文書解析パイプラインを、DP-Benchの公開200文書すべてに一度の固定実行で評価しました。失敗した予測はありませんでした。

DP-Bench指標Consilience2026年8月31日の公開最高値
TEDS、表構造とセル内容96.3496.06
TEDS-S、表構造98.4197.62
NID、要素検出と読む順序95.0096.62
Table-F193.81公開表に掲載なし

同日時点の公開値をTEDSで0.28ポイント、TEDS-Sで0.79ポイント上回りました。best-of-N選択、推論時の正解参照、文書ごとの手修正、事後的な出力補修を使わない全コーパスの単一実行です。公式掲載は現在も審査中であるため、これは再現可能な提出候補の記録であり、確定した公式順位の主張ではありません。DP-Bench公開リーダーボード提出記録で比較条件を確認できます。

Consilienceが構築したのは、文書入力、転写プロンプト、意味構造の直列化、正規化、評価を結ぶ解析パイプラインです。基盤モデルのGemini 3.6 Flashは外部から提供され、Consilienceが学習したものではありません。

オントロジーは真実を宣言せず、根拠を保存する

モデルが文章からtripleを抽出したことは、そのtripleが真実であることを意味しません。EngramRAGはこの違いを、説明だけでなくデータ構造として維持します。

  • すべての関係は、原典となる文書ごとのnamed graphに属します。
  • 人が書いたassertionと、モデルが提案したanalysisは異なる層に保存されます。
  • エンティティ解決はoverlayなので、誤って結びつけた対象を再び分離でき、ユーザーのdistinct判断は以後の自動統合を防ぎます。
  • 新しい決定は、過去のassertionを消すことなく、以前の決定を改訂する候補になれます。
  • 両立しない型は誤統合を防ぎ、原典となる文書は人がいつでも確認できます。

動作原則は、truthではなくprovenanceです。EngramRAGは何を信じるべきかを自動的に宣言する代わりに、関係がなぜ生まれ、誰が書き、抽出し、承認したかを保存します。オントロジーは人の記録を置き換えず、人とエージェントがその記録を探索できるようにします。

一度の検索を、記憶のライフサイクルへ変える

EngramRAGが変えるのはRAGの単位です。一度の問いとその近くの段落ではなく、知識が記録され、結びつき、検索され、修正され、再び使われるライフサイクル全体を扱います。

人がセッションごとに完璧なプロンプトを作り直す必要はありません。モデルも、切り離された数個のファイルだけを渡され、毎回ゼロから始める必要はありません。Consilienceはその間に、人が所有して編集する文書を置き、その下に取り消せる関係インデックスを作ります。原文は読め、構造は探索でき、一度の会話で生まれた修正は次の仕事まで残ります。

測定は一つの方向を示しています。同じモデルを使っても、記憶構造はエージェントが何を見つけ、どれほど安定して仕事を終え、正しい結果一つにいくら使うかを変えます。モデル能力と記憶アーキテクチャは、互いを置き換えるのではなく増幅します。

EngramRAGは、Consilienceが開発した文書処理・記憶・検索パイプラインです。抽出と推論の途中で外部提供の基盤モデルを利用できますが、EngramRAG自体が基盤モデルではなく、Consilienceがそれらのモデルを学習したものでもありません。